※本記事は映画『アノーラ』のネタバレを含みます。
第97回アカデミー賞で作品賞など5部門を受賞した『アノーラ』を鑑賞しました。ポスターからは夢のようなラブストーリーを想像していたのですが、実際に描かれていたのは、その先にある現実の厳しさでした。シンデレラストーリーのように始まりながら、お金、階級、孤独といったテーマが静かに突き刺さる作品だったと思います。
アカデミー賞受賞で話題になっていたこともあり、ポスターを見たときは「きっと最後は夢のようなハッピーエンドに向かう作品なのだろう」と思っていました。けれど、実際に観てみると印象はまったく違いました。
本作は、シンデレラストーリーのような入り口を見せながら、その先にある現実の厳しさや人間の弱さを容赦なく描いていきます。
ラブストーリーとして観ることもできますが、個人的にはそれ以上に、お金、階級、依存、孤独といったテーマが強く印象に残る作品でした。
『アノーラ』はどんな人におすすめ?
『アノーラ』は、王道のラブストーリーというより、ラブストーリーにひとひねりある作品が好きな方におすすめです。
逆に、夢のような恋愛映画や分かりやすいハッピーエンドを期待していると、少し印象が違うかもしれません。
本作は甘さよりも、ずっと現実感の強い映画でした。
オープニングから心をつかまれる高揚感
映画の幕開けでTake Thatの「Greatest Day」が流れた瞬間、一気にテンションが上がりました。
あの高揚感は、やはり映画館でこそ味わえるものだと思います。冒頭から一気に物語の世界へ引き込まれました。
華やかで眩しい始まりに心をつかまれたからこそ、その後に待つ展開との落差がより際立っていたように感じます。
『アノーラ』はこのオープニングによって、「もしかしたら夢みたいな展開が待っているのでは」と観る側にも期待を抱かせます。だからこそ、物語が進むにつれて見えてくる現実の重さが、より痛く響きました。
『アノーラ』が描く「お金=幸せ」という価値観
主人公・アノーラは、冒頭では「幸せはお金で手に入る」と信じています。
この考え方はとても現実的で、私はかなり共感できました。ある程度の生活基盤や少しの余裕がなければ、心のゆとりを持つことすら難しい。そう思うのは不自然なことではありません。
だからこそ、彼女がイヴァンとの関係に夢を見るのもよく分かります。
もし本当にお金持ちの御曹司と付き合えるとなったら、人生が一気に変わるかもしれない。そう思えば、舞い上がってしまうのも自然なことです。
ただ、イヴァンのもとへ行くためにストリップの仕事を辞めたあたりから、アノーラの態度は少しずつ変わっていきます。
どこか高慢で、理想に浮かれているようにも見えて、「人ってこうやって状況に酔ってしまうものなのかもしれない」と、少し冷静に見てしまった自分もいました。
イヴァンは本当にアノーラを愛していたのか
一方で、イヴァンが最初からアノーラに本気だったのかについては、最後まで疑問が残りました。
お酒やドラッグで正常な判断ができていなかった可能性もありますし、何より両親の前であっさり従ってしまう姿を見ると、彼自身がまだ「自分の人生」を生きられていない人物に思えます。
アノーラが現実を変えようとしていたのに対して、イヴァンは最後まで流されるままでした。
その差が、この作品を単純な恋愛映画で終わらせていない大きな理由のひとつだと感じます。
結局のところ、アノーラはイヴァンとの関係に未来を見ていたけれど、イヴァンにはそこまでの覚悟がなかった。
その温度差が、物語全体に苦さを残していたように思いました。
イゴール、トロス、ガルニクとの時間が印象に残る
『アノーラ』はアノーラとイヴァンのラブストーリーが中心の作品だと思っていたのですが、実際に強く印象に残ったのは、イゴール、トロス、ガルニクを含めた時間でした。
4人でイヴァンを追いかける場面はどこかユーモラスでありながら、同時にかなり切実でもあります。
この時間が長く描かれることで、作品は単なる恋愛の話ではなくなり、アノーラ自身が少しずつ現実を知っていく過程として深みを増していたように思いました。
特に印象的だったのは、イゴールとの距離感です。
イゴールは決して派手な存在ではありませんが、アノーラに対して最も人間として向き合っていた人物に見えました。
だからこそ、彼とのやり取りを通して、イヴァンがアノーラに本気で向き合っていないことが、よりはっきり浮かび上がっていた気がします。
『アノーラ』ラストの意味をどう受け取るか
結局、イヴァンは自分の立場を守るためにアノーラとの関係を断ちます。
でも正直、「どうせまた親の目がないところで同じことを繰り返すのでは」とも思ってしまいました。
それくらい彼は未熟で、自分の意思で生きている人物には見えませんでした。
そして、『アノーラ』のラストで特に印象に残ったのが、アノーラとイゴールの関係性です。
あの2人が恋愛関係になるのか、友情なのか、それとも一瞬だけ心が触れ合っただけなのか、作品は明言しません。
個人的には、あの2人は恋愛というより、戦友のような関係でいてほしいと感じました。
きらびやかで不安定なイヴァンとの時間ではなく、現実の痛みを知った者同士として一瞬だけ通じ合った。あの曖昧さがとても良かったです。
オープニングと対照的なエンディングが残す余韻
あれほど明るく高揚感のあったオープニングに対して、エンディングはとても静かです。
特に、ウィンカー音だけが響くあの演出は強く印象に残りました。
派手な幕引きではなく、現実の厳しさと割り切れなさ、そして言葉にしきれない余韻だけを残して終わる。
この終わり方こそが、『アノーラ』という映画の本質なのだと思います。
シンデレラストーリーのように見えた物語の先にあったのは、夢の成就ではなく、現実の冷たさでした。
それでも、アノーラの人生がこの先少しでも良い方向へ進んでくれたらと、祈るような気持ちでエンドロールを見つめました。
まとめ|『アノーラ』は“夢のあと”を描く映画だった
『アノーラ』は、華やかな恋愛映画のように始まりながら、その先で現実の厳しさを静かに突きつけてくる作品でした。
お金があれば幸せになれるのか。誰かに選ばれることで人生は変わるのか。そんな問いを投げかけながら、最後まで簡単な答えを出さないところに、この映画の魅力があると思います。
ラブストーリーとして観ることもできますが、個人的にはそれ以上に、現実のなかで必死に生きようとするアノーラの物語として心に残りました。
夢のような始まりの先にある、冷たさや痛み、そして言葉にしきれない余韻まで描いたからこそ、『アノーラ』は観終わったあとも長く心に残る作品だったと感じます。


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